本文
移住者インタビュー(地域おこし協力隊 鈴木健作さん)
地域おこし協力隊 鈴木健作さん(東京都から移住/2人家族)
東京から移住し、地域おこし協力隊として活動している鈴木さん。
松本市の西側に位置する山間部、安曇地区(※1)で暮らしています。
移住のきっかけはネガティブな理由であったものの、松本には自分が求めていたものがあったと語ってくれました。
▲鈴木さんと奥様
(※1 安曇地区は松本市の西側にあり、槍ヶ岳や穂高連峰、乗鞍岳など3,000mを超す雄大な山岳に囲まれ、地区面積の98%を山野が占めています。旧南安曇郡安曇村であり、2005年に安曇村を含む松本市周辺4町村が松本市に合併し、松本市安曇となりました。)
Q.松本市に移住するまでの経緯を教えてください。
出身は神奈川県の横浜です。大学は東京でしたが、実家から通っていました。
大学時代に1年間アメリカに留学した経験があり、社会人になってからは東京で暮らしていました。
2年間IT系の会社で働いて、会社の同期である妻と結婚して、松本に移住したのは2023年の7月です。
今は地域おこし協力隊として活動しながら、松本市安曇地区の乗鞍エリアに住んでいます。
Q.移住を考えたきっかけは何ですか?
大学時代アメリカに留学していた時、自然の良さを知って、日本でも自然の中でできることが何か考えたときに「登山をやってみよう」と思い、帰国してから登山を始めました。
その頃からいつか地方に移住したいという気持ちがあったのですが、東京で暮らすことが無理になってきてしまって、ますます移住への思いが強くなりました。
東京が無理になったというのは、暑い、狭い、人が多いとかのよくある理由ですが、プラス仕事で行き詰まってしまったことが大きかったです。
大きい会社だったので、自分よりレベルの高い仕事ができて体力もあって無限に働けるような人がいっぱいいて…。
自分はそこで戦えなくなってきて、転職したとしてもずっと東京にいて無限ループになると思ったときに、移住の決断をしました。
Q.どのように情報収集しましたか?
図書館に行って移住に関する本を読みました。“移住を考えた時に読む本”みたいなタイトルでしたね。
その本の中に、ふるさと回帰支援センター(※2)のことと、地域おこし協力隊のことが書いてあって、そこで初めて知りました。
地域おこし協力隊の制度自体が、特段なにか能力とかはないけど移住したいっていう自分のような人間にとってぴったりだと感じました。
なので移住するとしたら地域おこし協力隊として行きたいと妻と話していました。
その後はふるさと回帰支援センターに行って、ざっくり長野県に移住したいという話をしたところ、南木曽町(※3)の移住ツアーを紹介してもらいました。
それで実際に南木曽町に行ったら、元々南木曽町の地域おこし協力隊だった方がゲストハウスを経営していて、そういったお話をいろいろ聞くなかで、自分もなんとかなりそうだなと思えたんです。
しかも、その方が自分と同じ会社の人だったんですよ。働いていた時期はかぶっていないんですけど、そんなこともあっていろいろ相談に乗っていただきました。
(※2 東京有楽町の東京交通会館内にある移住相談センター。地方移住に関するパンフレットや資料を常設し、各地域の相談員が移住を希望する方に具体的な地方暮らしの情報を提供するとともに、各種ご相談に応じています。松本市もブースを出展しています。詳しくはこちら)
(※3 【なぎそまち】長野県木曽郡南木曽町。長野県の南西部に位置する町。)
Q.移住先を松本市に決めた理由は何ですか?
南木曽町の移住ツアーに参加したのが2023年1月頃で、その時に南木曽町を気に入っていたので、もう移住しようかなと思ったんですけど、その時は地域おこし協力隊の募集がなくて、まだ1年くらい先にならないと募集がないと言われて…。
最初はそれまで待とうかと思ったんですけど、その頃には自分の仕事に対する気持ちがどん底まで落ちてきてしまっていたので、もう待っていられなくて…。
そんな時にちょうど、ふるさと回帰支援センターの相談員さんとメールでやり取りしていて、松本市安曇の地域おこし協力隊募集について教えてもらいました。
なので、たまたまタイミングが合ったのが松本という感じでした。
松本市は、登山の時に来たことがあるくらいで全然知らなくて、大きい街だろうなというイメージがあるくらいでした。
地域おこし協力隊の募集を教えてもらって、すぐ応募して、その後応募者を対象にした説明会兼現地ツアーに参加して、ようやくちゃんと安曇地区や乗鞍の位置関係とかを理解した感じでしたね。
― 個人的な下見はしましたか?
説明会兼現地ツアーに参加する他には、下見と言えるようなことは、ほぼしていないです。
インターネットでできることはしましたけど。
YouTubeで松本が取り上げられた移住の番組を見たくらいですね。
― 応募したときの気持ちと、実際に現地を見たときの気持ちと、何か変化はありましたか?
松本の山間部である安曇地区の隊員を募集するものだったので、ツアーでもほとんど山間部だけを見ました。
松本って都会のイメージがあったんですけど、山間部はとんでもなく田舎だったから、自分にとっては理想的な環境でした。
地域おこし協力隊として採用されれば、安曇地区内の市営住宅に住むことになっていたので、その住宅も見せてもらって綺麗だったし、当日は車で移動していたんですけど、市街地からも思ったより遠くないなって把握できたので、イメージはより良くなりました。
Q.地域おこし協力隊の仕事内容を教えてください。
地域おこし協力隊といっても、個人事業主として松本市から業務委託を受けています。
そして一般社団法人松本市アルプス山岳郷(※4)という団体に出向するような形で、いろんな業務に携わっています。
一般社団法人松本市アルプス山岳郷は、DMOといって市と観光協会の中間のような組織で、主に地域づくりメインに西山地区(※5)全体がよくなるように影で支える縁の下の力持ち的なことをやっている団体です。
その中で具体的にやっていることは、例えばツアー造成とか、地域の困りごとの相談に乗ったり、地域の観光人材として働いてくれる人が減っているので、解決するために学生さんと何ができるかと話したり、地域の人にインタビューして西山地区の冊子みたいなものを作ったり…。
昨年は、千葉県の大学の観光学部の学生さんの中から希望者を募って、西山地区の事業所(宿泊施設)に来てもらって、アルバイトとして実際に働いてもらうということをやりました。
あくまでテストとして行ったので、宿泊施設等からのフィードバックを受けて、今後どうしていくかを考えているところです。
西山地区は宿泊施設が多いんですけど、繁忙期でも人手が足りないという問題があって、観光学部の生徒がリアルを知る場があったらいいよねっていう話から、コーディネートしたんです。
これはアルプス山岳郷としての仕事ですが、他にも乗鞍エリアのことで人が足りないから来てと呼ばれれば個人的に行ったりしています。
なかなか自分みたいな融通の利く人材がいなくて、いろいろやらせてもらっています。
例えば乗鞍の花火大会とか映画祭とか、イベントの裏方みたいなこともやりました。
(※4 松本市の西側に位置し、北アルプスの上高地、乗鞍高原、白骨温泉などの有名観光地を有する山岳エリアを「アルプス山岳郷」と名付け、一帯の観光地域づくりを目指して発足した地域DMO。ホームページはこちら<外部リンク>)
(※5 松本市の西側に位置する山間部エリアの総称。)
― 奥様は何のお仕事をしていますか?
妻も東京で同じ会社で働いていて、移住した後もしばらくテレワークで続けていたんですけど、退職して、今は乗鞍でいろんな細かい仕事を掛け持ちでやっています。
フリーランスみたいな感じで、いろんな人からどんどん声をかけられていて…。
何でも屋さんみたいな感じですね。
― 仕事で一番楽しいことは何ですか?
地域の人達と一緒にやることはなんでも楽しいです。
花火大会のときも、雨降るからテント張るぞってなって、どんどん地域の人が出てきて、みんなで一生懸命テント張って…。
誰かと関わって一緒にいるときはやっぱり面白いなと思います。
一方で、アルプス山岳郷としての仕事は、パソコンに向かって一人で作業することが多いので、少し寂しく感じる時もあります。
地域おこし協力隊として、求められている業務をこなさなければいけないのはもちろんですが、地域が求めていることとのギャップを感じることはあります。
住めば住むほど、地域が求めている人材はテントの例のように、パッと出て来れる若い人なのかなと思っています。
▲乗鞍の映画祭にて、地域の方たちと一緒に。
Q.松本での生活の満足度を教えてください。
大満足です。
自分の求めていたものが安曇、乗鞍エリアにあったと感じています。
自然が近いということと、人が少なくて暑苦しくない。
あと、移住前に読んだ移住の本に、田舎での生活は人間関係の面倒くささがあるということが書いてあったんですが、自分にとってはそれがすごく心地良いです。
それこそが人間のあるべき姿だなと思います。
東京だと全てが機械的に動いていて、ずっとモヤモヤしていたんですが、こちらに来てから人間らしい生活ができていて、それが自分にフィットしました。
▲地域の方たちとの打ち合わせにて。
Q.不満足な点は何かありますか?
移住前は、作業場所としてチェーン店のカフェなどを利用していたんですけど、山間部にはもちろんなくて、家と職場以外の場所をまだ探せていないことです。
個人のカフェとかお店はあって大好きなんですけど、お店の人との距離が近すぎて、一人で作業したいと思って行っても、ついつい話し込んじゃうなんてこともあるので…。
もちろんそれも楽しいんですけどね(笑)
あと東京で好きなラーメン屋があったんですが、松本にはないので、時々恋しくなる時があります(笑)
Q.山間部での生活はいかがですか?
まず、冬はめちゃくちゃ寒いですね。
松本に来てから安曇地区の中で一度引っ越しをしているんですが、最初に住んでいた大野田エリアと、今住んでいる乗鞍エリアとでもだいぶ違います。(※6)
こんなにいろいろ凍るんだと思いましたね。
オリーブオイルとか、調味料は大体凍ります。凍らないために冷蔵庫にいれるという…。
洗濯機も、中の管が凍ってしまって初日で壊しました。
あと加湿器も、タンクの水が凍って動かなかったり。
寝ているときに、自分の鼻息が布団にかかると、その部分が結露するんですよ。あれはびっくりしましたね。
(※6 大野田エリアから乗鞍エリアまでは車で40分程度。)
― 冬はどのように暖を取っていますか?
こたつと石油ストーブです。
安曇地区は雪のせいで停電することもあるので準備しておいた方がいいと言われて、電気がなくても使える石油ストーブを使っています。
雪も今年は多かったみたいです。
今の家には、前の住人が置いていった小さいブルドーザーあるんですけど、雪かきの時はそれを使っています。
来るまでは、まさかそんなことすると思わなかったんですけど
3月くらいに雪が降ることが多くて、それにびっくりしました。
気温もマイナス15度くらいには下がりますね。
意外に夏は暑いんですけど、東京と比べれば全然マシです。
湿度が低いし、朝晩は涼しくなるので、寝るときにエアコンを使わないどころか、布団かけて寝られるくらいでした。それはいいことですね。
― 普段の買い物はどこに行きますか?
山形村の「アイシティ21」にあるツルヤとか、梓川地区のカインズホームによく行きます。(※7)
ツルヤがとにかく大好きで、推しスーパーです。
いつもジャムやドライフルーツを買って登山用に蓄えるんですよ。
スーパーが遠いので、すぐに山に行くための準備を常にしているんですよね。
(※7 山形村は松本市の南側に隣接する村。「アイシティ21」は井上百貨店が運営するショッピングセンター。)
― 病院などはどうですか?
松本に来てから妻が体調を崩して入院することがあって、その時は小さいクリニックから始まって、最終的には信大病院(※8)に入院しました。
最初に行ったクリニックは梓川地区でしたね。
安曇地区にも診療所はあるんですけど(※9)、その時はインターネット検索して出てきたところに行きました。
(※8 松本市旭(あさひ)にある信州大学の附属大学病院。特定機能病院、高度救命救急センター指定病院。)
(※9 安曇地区には、安曇大野川診療所・安曇沢渡診療所・安曇稲核診療所・安曇島々診療所の4つの診療所があります。詳しくはこちら)
― ゴミの収集はどうですか?
安曇地区は広いので、自宅から収集場所まで少し遠くて、車でゴミ出しに行くのは衝撃でしたね。
収集のスケジュールも市街地とは違うと思います。
燃えるゴミの収集は普段は週2回ですけど、冬は週1回です。
プラスチックは2週間に1回。
ダンボールとかも溜まるけど、資源物の回収場所が市内にいくつもあるので、そこに持っていきます。(※10)
(※10 資源物をごみステーションでの回収に出せない場合などは、市内の福祉施設などが設置している回収場所に持ち込むことができます。詳しくはこちら)
― 不便だと感じることはありますか?
山形村のツルヤまでは車で50分くらいで、梓川地区までは車で40分くらいかかりますが、もうそれも当たり前なので、その距離感はなんとも思わないですね。
山間部に暮らすってそういうことだと最初から思っていましたし、運転も嫌いじゃないし、妻も松本に来てからペーパードライバーを卒業しました。
時間がかかることは苦じゃなくて、むしろ効率化されすぎていないことの方が、自分はいいですね。
生きている実感があります。
安曇地区にはコンビニがないんですが、移住前は行き過ぎていたことに気づかされました。
あれはもう浪費の場所ですね(笑)
松本に来てから、「いいものを買おう」という意識が強くなりました。食べ物とか着る物、全体的にですね。
地産地消を意識するようになったし、いいものを長く使いたいので、量より質になったって感じですかね。
― 山間部での子育てについてどう思いますか?
放課後教室(※11)のお手伝いをする中で、地域の子どもたちと一緒に過ごすことがあるんですけど、子どもたちがいろんな大人を知っている環境は大きなメリットだと思います。
親御さんにとっては子どもの送迎などが大変ではあると思うんですけど、それを補うくらいのメリットがあるかなと。
いつか自分たちも子育てしたいねという話は妻とします。
最初に都会で育った子どもが田舎に行くのはハードルが高いけど、田舎から都会に行くことはすぐにできるから、最初に田舎を知っておくのはいいんじゃないかなって。
妻は虫を触れないんですけど、子どもは平気な子だといいなって(笑)
関わる大人が多いのと、自宅で宿泊施設を経営している家の子が多いので、人懐っこい子が多い気がします。
知らない人に話しかけるのに抵抗がない子が多い気がしますね。
(※11 【松本市放課後子ども教室推進事業】松本市では、すべての子どもを対象に放課後に小学校の余裕教室などを活用して、地域の方々の参画を得ながら、安全・安心な子どもの居場所づくりとして実施しています。保護者の就労の状況にかかわらず、放課後子ども教室を実施している学校に通うお子さんはどなたでもご利用いただけます。詳細はこちら)
▲冬の安曇地区
Q.移住前に準備しておけばよかったことは何かありますか?
車はミスったなって。
松本に来てから2WDの車を買ったんですけど、最初から4WDにしておけば良かった。
大野田エリアなら2WDでいいんですけど、乗鞍エリアに住むなら4WDだなって。
今は4WDとの2台持ちです。
Q.生活の楽しみは何かありますか?
朝の散歩かな。
朝コーヒー淹れて水筒で持って行って歩く時間が面白いです。
今日ここに花咲いてるなぁとか、そういう発見が自分にとっては楽しいですね。
妻と2人で出かけるときは、しょっちゅう登山に行っています。
人からおすすめされた個人のアウトドアショップとか行ったりもします。
Q.松本でこれからやりたいことはありますか?
乗鞍でやりたいことは、宿の経営です。
南木曽町で出会ったゲストハウスのオーナーと話して人生が変わったので、そういう経験ができる宿を自分もできたらいいなと思っています。
それがさらに移住に繋がって、乗鞍に来てくれる人が増えたらいいと思いますね。
実は今住んでいる家も元々宿だった建物です。ここで宿ができたらと思っています。
Q.これから移住される方に伝えたいことはありますか?
東京から逃げるような形での移住だったので、自分では「ネガティブ移住」と呼んでいるのですが、それも選択肢の一つとしてアリなのかなと思います。
野心があるのはもちろん大事だし、移住したい人って、なんかキラキラしたことをやりたい人が多い印象なんですけど、そうじゃなくてもいいんじゃないかって。
まずは地域に馴染むために、謙虚にできることからやっていくっていうのもいいのかな。
もし今モヤモヤしている方がいらっしゃったら、思い切って環境を変えるのに松本はふさわしい場所だと思います。