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移住者インタビュー(宮下さん)
宮下さん(東京都から移住/4人家族)
年単位で移住を検討しつつも、松本市への移住は「電撃的」だと語ってくれた宮下さん。
空き家との出会いや、夫、10歳・6歳の娘さんと過ごす里山暮らしについてお聞きしました。
▲美ヶ原王が頭に立つ宮下さん。背景は松本平。
Q.移住を考えたきっかけは何ですか?
主人が工芸の作家をしているので、住居兼工房とか、家と工房が隣あっているようなところを探していました。
東京都内に住んでいたときは、住宅から作業場に電車で通勤している状況だったので。5,6年かけて、いろんな地域を見ていて、あわよくば蔵付きみたいな家を探していたら、たまたま松本市にそういう物件があるって聞いて。
見に来た時は、まさにここだ、と思いました。2020年の4月上旬に見に来て、5月末には松本に移住しました。
ー 移住したきっかけは家との出会いが大きい?
それもあるんですけど、東京都内のマンションで暮らしていた時、本当に近所付き合いがなくて。長女がちょうど小学校1年生になった時に、同じマンションにこんなに同級生がいたんだって初めて気がついたくらい。
あとは、商店街の近くに住んでいたので、本当に人だらけで。大人だけで住む分には便利だし、全く問題なかったんですけど、いざ子供が産まれると…。
人も車も自転車もバンバン通るし、ここでは育児ができないと感じていました。
▲入山辺地区を流れる薄川(上流)
Q.家はどのように探しましたか?
塩尻市(※1)に住んでいる主人の父親が、いろんな頼まれごとをされる仕事をしていて、今の家も、使ってくれる人を探してほしいって頼まれていたんです。コロナで娘の学校も休みで、私も主人も仕事が止まっちゃったので、見に行ってみるかって。
(※1 松本市の南に隣接するワインと木曽漆器で名高い市)
Q.松本市や入山辺(いりやまべ)地区のことは知っていましたか?
知らなかったです。下見した家のある入山辺地区(※2)が松本市って認識もなくて、後で住所を見て、ここ松本なんだって。
でも、意外と中心市街地に近いなって思いました。家の下見の後に中心市街地へ行って、食事をして、こんな時間でついちゃうんだって。ほぼ信号がないので、車で30分弱です。
(※2 美ヶ原高原を擁する松本市内東部の地区。山が近い高台であり、市内を見渡すことができます。)
Q.家は年季が入っていますか?元・空き家に住むにあたって、リフォームはしましたか?
築63年なので、古民家ではないけど新しくもないです。
リフォームはしました。床を張り替えたのと、内装も。壁のペンキは、主人の父親が塗って私も手伝いました。あと、おトイレが汲みとり式だったので、市の助成金を活用して、浄化槽をつけてトイレを水洗にしました(※3)。リフォームまで1年は我慢したんですけど、さすがにちょっと限界がきて…夏場は気が遠くなるぐらい臭くて、虫だらけだったから、みんなノイローゼになっていました。
(※3 松本市合併処理浄化槽設置整備事業補助金。補助金の詳細はこちら)
Q.移住前に準備しておけばよかったと思うことはありますか?
想像以上に冬が寒かったです。雪も結構降りますね。街中では何ともなくても、帰ってきたら積もっていたりします。
寒さには、本当に何の対策もしてなくて、ホットカーペットもなく、オイルヒーター1台だけでした。でも今隙間風だらけでオイルヒーターまったく役に立たなくて。灯油ストーブをつけたり、どんどん増やしていきました。3年目の冬に念願の薪ストーブを設置しました。費用は市の助成金を活用しました(※4)。
また、薪は県の事業で奈良井川の伐採木をいただくことができました(※5)。
あとは、ダウンジャケットを着て寝ています。子供も、外用の上着と家の中用の上着を使い分けています。
(※4 松本市薪ストーブ等購入事業補助金。補助金の詳細はこちら)
(※5 長野県奈良井川改良事務所 伐採木の無償配布。事業の詳細はこちら<外部リンク>)
▲冬の入山辺地区
Q.地域の方との交流はありますか?
引っ越してきてあいさつしたときは、コロナ真っ只中だった時だったので、「東京から来ました」って言ったら村八分になるんじゃないかって覚悟していたんですけど、どの家に行っても「こんな小さい子連れてよく来た」って歓迎してもらえて。
世帯数が少ないので、みんな顔見知りですごくよくしてもらっています。毎月町会(※6)が開かれるんですけど、町民ほぼ全員が集まっています。誰かが新聞の切り抜き持ってきて、「市長がこう言ってた」とか話してます。
(※6 お住まいの地区の区域内の世帯で構成される自治組織。松本市では、町会ごとに特色ある活動が行われており、集会は月1回という町会もあれば、年1回という町会もあります。活動内容や頻度は、所属する町会により異なります。町会活動の詳細はこちら)
ー 地域活動を楽しんでいらっしゃる。
はい。負担に感じることはないです。草刈りが朝5時からって聞いて、初めは5時?と思いましたが、いわゆる出不足金とかもないし、来られたら来てね、そんな無理しなくていいよって言ってくれたりします。
町会でうちしか子供がいないんですけど、三九郎(※7)をやってくれたり、三町会で一世帯ずつしか子供がいないけど、公園の遊具を新しくしてくれたり。
公園に古い遊具があって、さびて落ちそうな遊具だったんですけど、新しくしてほしいって市に言ったら撤去されちゃって。一年後くらいに町会長さんがほかの方ともと話し合って、コロナ禍で使わなかった町会費があるから、それで遊具を作ってくださって。本当に子供に手厚くしてもらっています。
(※7 毎年1月15日前後に行われる火祭り。「どんど焼き」とも呼ばれ、全国各地で類似の祭事があります。農閑期の田畑や河原に、正月飾り、だるま、藁などを高く組み上げ、火をつけて燃やします。)
▲町会により整備された公園
Q.移住してから、お子さんの変化などはありましたか?
すらっとしました。元々、運動は好きな方だったんですけれどより活発になった。
東京の学校にそのまま行くっていう選択肢もあって、そのまま住むつもりではあったんですけど、電撃的に引っ越したので。上の子は、入学式と分散登校で1日だけ登校して、すぐ引っ越しになりましたが、給食も始まっていなかったし、ひたすらプリントやって、いわゆる小学校生活は送れていませんでした。
保育園でも給食だったんですが、今小学校の給食が本当に美味しいって言ってます。牛乳も美味しいから毎日おかわりしている。食べ物が全部、松本の方が美味しいって。
▲上高地明神橋
Q.移住前の商店街の近く立地と比べて、移住後の立地に不便を感じたりはしませんか?
逆に車で好きなものを好きなだけ買えるのが、すごい楽。移住前は、カートで買い物をする機会がほぼなかったです。お店が狭かったので。だから今は、売り場も広くて、スーパー行くのが楽しいです。買い物がちょっとしたレジャーのような。
ツルヤ(※8)とかイオンモールによく行きます。主人があんまり添加物の入っていないものとか好きで、東京もそういう専門スーパーがあるんですけど、値段が高かったです。会田の卵とか、東京にいた時1パック今の倍くらいの値段で買っていました。
食費も減りました。子供がバス通学で、バス停から家まで帰ってくる間に、ご近所さんからキャベツとか白菜とかいただいて。家庭菜園では、枝豆とか、ビーツを育てています。はじめはきゅうりとか育ててたんですけど、ご近所さんも同じ食材を育てて大量にいただくので、ちょっとニッチな野菜を育てています。
(※8 長野県および群馬県で展開するスーパーマーケット)
Q.山の近くで暮らしていることによる、鳥獣被害などはありますか?
家庭菜園の野菜は結構食べられていて、出勤して帰ってくると、鹿が出てくるときがありますね。主人が1回子熊を見かけていて、長女も1人のときに猪に出くわしています。
ご近所の若い方が狩猟の免許を持っていて、鹿を捕って捌くんですが、娘がそれを見て、生命についていろいろ考えたみたいです。近所で鹿が死んでいた時も、毎日通学路から、だんだん朽ちていくのを見て、子供ながらに、こうやって死んでいくんだって実感しながらいろいろ吸収しています。
鹿肉はご近所の方に塊でいただいたことがあって、唐揚げにして食べました。
ー もともと松本に住んでいても、なかなか経験できない体験をされていますね。
便利を考えると確かにもうすこし中心市街地近くにいれば便利だと思うけど、でもこういう体験は絶対にできないから。どの桑の実が食べられるか、とか子供のほうがよく知っています。近所のおじいちゃんが教えてくれて。
農家さんがいっぱいいるので、自分の家用にお米の稲刈りとか手伝わせてもらったこともあります。
Q.最後に、今後移住してくる方に、アドバイスをお願いします。
住む地域で、全然地域性が違うので、自分が求めているものの優先順位で場所を選んだ方がいいかもしれない。どういう暮らしをしたいか明確にすればするほど、松本市の中で選択肢がたくさんある。どこの地域でもちゃんと受け皿があるので、求めているものはあると思います。
▲入山辺地区鹿柵付近